愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 元会長とは、三年前に使い込み問題を起こした伯父だ。しばらく会っていないが、どのみちいい話であるはずもない。

 また何かやらかしたのか。

「大丈夫だ。出るよ」

『やあ綾星、久しぶりだね』

 明るい伯父の声とは逆に、俺の方は憂鬱の闇に飲み込まれそうになる。

「お久しぶりです。何か?」

『ちょっと時間を作ってくれないか、話がしたくてね』

 面倒はさっさと済ませるに限る。
「では、今日の昼でどうでしょう」

 言いながらちらりと透を見ると、透は頷いた。予定は入っていない。
 伯父とはすぐ近くのホテルのレストランで会う約束になった。

 電話を切ると、透が心配そうに聞いてくる。
「なんだって?」

「わからない。とりあえず会ってみる」

 会社と縁を切った今、伯父の用事があるとすれば五條家の問題だ。父や叔父ではなく俺に連絡するとなると、金の無心か?

 どうせ避けては通れない。重たい足枷だろうが何だろうが、引きずってでも俺は前に進む。


 レストランにはひとりで向かった。
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