愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 氷の月を訪ねたあの夜、私は賭けをした。

 見えない犯人への挑戦状。

 酔っている私が氷室さんに介抱されてホテルに連れて行かれるという写真を、意図的に撮らせようと思った。

 でも本当はそれだけじゃない。
 私には密かな別の賭けもあって。氷室さんさえその気になってくれれば、本当に抱いてもらう覚悟でいた。

 写真だけでなく不貞の事実があれば、綾星さんも踏ん切りがつくはず。私も新たな気持ちで一歩を踏み出せると、あのときは思った。

 私にとって氷室さんは特別な人である。

 今から四年近く前の、まだ綾星さんとの縁談もなかった頃。
 私は、兄と氷室さんの会話を耳にした。

 遊びに来ていた氷室さんに挨拶をしようと思って兄の部屋へ向かうと、部屋の扉が開いていて会話が聞こえてきたのである。

『仁、星光と結婚しろよ。お前が身内になったらうちは無敵なんだよな』

 氷室さんは『俺なんかじゃ星光が嫌でしょ』と笑った。
『花菱家の身内になるなんて、俺には恐れ多くて無理ですよ。ヤバすぎる』

 多分、兄は半分本気だったと思う。もしかしたら私の気持ちを知っていたのかもしれない。
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