愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 そして氷室さんは、それらを全部わかっていて笑い話に変えた。

 彼は綾星さんと違って、女性の心の機微に鈍感な人じゃない。私の気持ちに気づいていたと思う。

 私との結婚。
 氷室さんの答えはノーだったのである。

 そのまま自分の部屋に戻り、声を殺して流した涙と共に、私の初恋は終わりを告げた。

 兄が綾星さんとの縁談話を持ってきたのは、それから数カ月後だった。

 お見合いの席にスーツで現れた綾星さんは、とても素敵だったけど、今思えばどこか傷ついた人のような目をしていた。
 プライドが高い人だから政略結婚が気に入らなかったのかもしれないし、私にガッカリしていたのかもしれない。

 幸せな家庭を願った私の夢を打ち砕く、クールでドライな人。
 五條家が立ち直れば、花菱との関係ももう私の存在は必要ない。あっさりと離婚できると思ったのに。

 どうやら私は、少し綾星さんを見くびっていたらしい。

 あっさりと離婚を受け入れるどころか、タクシーを追いかけ、私の父や兄を前にしてまで離婚したくないと食い下がった。

 やむなくひと月の猶予を了承したものの、このままじゃ離婚は危うい。確実に離婚に持ち込むために、私は氷室さんを利用しようとしたのである。

 でも氷室さんは――。

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