愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
『さようなら』
本気だったのか……。
家具はそのままに、ベッドの布団はきれいに畳んである。
チェストの引き出しは開けるまでもないだろう。
部屋を出てキッチンに戻り冷蔵庫を開けた。
中を見て、そういえばと気づく。
冷えたビールとミネラルウォーターしか入っていないが、数日前までは違ったはずだ。
食材やら作り置きが消えたのはいつからだろう?
思いつくままあちこち見てみた。
玄関脇の収納にあったはずの傘や、下駄箱の靴。洗面台の扉の中にあるはずの歯ブラシも何もかも、きれいさっぱり消えている。バスルームのシャンプーまでない。
「準備周到か。ったく」
面倒くせぇな。
何からすればいいんだ?
とりあえず今日は土曜日で、久しぶりに時間はたっぷりある。コーヒーメーカーをセットして離婚届を手に取った。
星光は自分の欄しか書いていない。
離婚にも証人が必要なのか。ひとりは親友の透に頼んだとして、もうひとりは誰に頼めばいいんだこんなもの。