愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
「でも専務は私のこと好きでしょう?」

「どうしてそうなるんだ?」

「だって……」
 案の定、五月は両手で顔を覆い泣き出した。

 透がボックスティッシュを取りに行って、五月の前に出す。
 俺をちらりと振り返り、いったい何が始まるんだという風に硬い表情で首を傾げながら席に戻る。

「部下として評価はしていた。朝食の用意については本当に申し訳なかったと反省している」

「奥さんのこと好きじゃないのに。仮面夫婦なんですよね? 自分で言ってたじゃないですか、恋愛して結婚したわけじゃないって」

 物は言い様だな。

「見合い結婚と言った記憶はあるが、それがどうしてそうなるんだ」
 透に伝えるためにも、はっきりと言った。

「誕生日のプレゼントも人任せにして、私が忘れたふりしても気づかないほど冷めきった夫婦なのに、どうしてですか? 地位? お金? あの人の権力?」
 興奮してきたのか五月の声が次第に大きくたってくる。

「まぁまぁ落ち着いて」と透が手の平を下に向けながら五月を宥めた。

「君が何をどう勘違いしたか知らないが、俺の妻は彼女しかいない」

 五月の動きがぴたりと止まった。

 顔を覆っていた両手を下げ、俺をじっと見つめる表情も、がらりと変わる。

 すごいな、涙は自由自在か。蛇口でもあるのかとうっかり感心してしまう。

「私セクハラで専務を訴えます」

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