愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 扉に手をかけた五月は、ふと振り返った。

「奥さま、各地にボーイフレンドがいらっしゃるようですから、再婚相手ももう決まってるんじゃないですか。離婚したら喜んでくれると思いますよ。お坊ちゃま」

 最後は悪女らしい笑みを残し、五月は廊下に消えた。

 ――お坊ちゃま、か。

 何も知らずに朝食を作ってもらっていた俺は、そう笑われても仕方がないだろう。

 カチャっと扉が閉まると、透が大きくため息をついた。

「なんだあれ。すごいな。あれが心羽の本当の顔か」

「さあな、何が本当で嘘なのか俺にはわからん」

 五月心羽と俺たちが知り合ったのは八王子支社の近くにあった小さなカフェ。

 老夫婦がオーナーのその店はカフェというよりも喫茶店という古めかしい店だった。
 お袋の味という地味ながらもおいしいランチが気に入って、俺と透は八王子に行くと必ずその店に行った。

 当時短大生だった彼女は看板娘だった。いつもにこにこと明るくて、彼女目当てに通っている男もいたと思う。

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