愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
「じゃ、帰るわね。お父さまによろしく」
「ああ言っておくよ。星光、離婚したいと思ったら俺に言えよ? あいつに一切近づかないように釘を刺さないとな」
あはは。ちょっと怖いですよお兄さま。
三日後、私は綾星さんとの約束のためマンションに帰る。
結論は変わらない。私にすれば、それをわかってもらうためのひと月延期。
出来るだけ穏やかに過ごし、お互いを思いやって握手をして別れるための期間だ。
帰る前日になって、ふと思い立ち、私は夜の街に足を延ばした。
マンションに戻ればしばらくは行けないだろうし。
雑居ビルの五階にその店はある。
扉の摺りガラスには、氷のように溶けていく月のモチーフ。その下にMembers Onlyとある。
『氷の月』。氷室さんが趣味で開店したバーは、どこにも看板がない。集客する気はないようで、店を訪れるのは氷室さんの友人知人だけ。
エレベーターを下りたところで足を止めた。
入り口前にバーテンとカップルがいる。
「会員にはどうやったらなれるんだよ」
「申し訳ありませんが、それはちょっと……」
どうやら入店を断られているらしい。その中を入っていくのは気が引けるので、立ち止まって待っていると、女性のほうが振り返った。
五月心羽だった。
「あら、奥さまじゃないですか」