一晩だけあなたを私にください~エリート御曹司と秘密の切愛懐妊~
だから、成人式には出ていない。
たとえ母が亡くならなくても式には出なかったと思う。
成人式に行けば絶対に松本に会ってしまうから。
それでも着物を用意していたということは、母親として娘に着せたかったのだろう。
帰省する可能性がほとんどない娘にこんな高価なもの買うなんて。
お母さんが欲しいものいっぱい買えただろうに。
母は贅沢をしない人だった。
山本家に嫁に来て、幸せだっただろうか?
我が儘な父にいつも従っていて、ひとりで子供ふたりの世話をして……。
でも、自分よりも子供のことを考えるのが母らしい。
身体はほっそりとしていたのに、心は家族の誰よりも強かった。
兄から着物を受け取り、畳の上で広げてみた。
牡丹が描かれ、レトロな真紅の布地に金彩が見事な着物。
なんて華やかなんだろう。
大学の卒業式は恵子さんが私に袴を着せてくれたけど、振袖は振袖の良さがあって素敵だ。
手に取って袖を通すと、なんだかあったかくなった。
なんだろう。
この不思議な感覚。

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