一晩だけあなたを私にください~エリート御曹司と秘密の切愛懐妊~
部屋を出て行く兄を見送ると、着物を畳んで元に戻した。
それから美久さんにお願いして、山本家の墓があるお寺に車で連れて行ってもらった。
「おばあちゃんの納骨も先月終わったところなの」
お墓の場所は裏覚えで美久さんが案内してくれた。
途中花屋に寄って買ったピンクのカーネーションとかすみ草を供えると、線香をあげて手を合わせる。
母はカーネーションとかすみ草が大好きだった。
「お母さん、おばあちゃん、福井に帰ってきたよ」
もう会うことはできないふたり。
死んでしまうということはそういうことだ。
命って大事だ。
私のお腹に宿った赤ちゃんを守りたい。
赤ちゃんを守って。
どれだけ祈っていたのだろう。
母と祖母が私に微笑んでいる姿が脳裏に浮かんだかと思ったら、頬に日差しを感じて目を開けた。
ああ、あたたかな光。
お母さん、おばあちゃん、そこにいるんだね。
「おばあちゃんの納骨の時は雨だったの。きっと雪乃ちゃんが来たから晴れたのね。お参りに来てくれて嬉しいのよ」
美久さんが澄み切った空を見てフフッと笑うと私も微笑み返した。
「そうだといいんですけど」
明日、過去と決着をつける。
だから、お母さん、おばあちゃん、見守ってて――。


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