視線が絡んで、熱になる【完結】
至近距離で見下ろされ、赤面したまま一歩ずつ後ずさる。
心臓の音が彼にまで届いているような気がした。それほどかつてないスピードでそれが動いている。
これ以上動いたら死んでしまうかもしれない、本気でそう思った。
顎を掬われた。控え目な視線が柊と強制的に絡み、琴葉は抵抗することさえできない。

「お前がどれだけいい女か、教えてやろうか」
「…い、い、意味がわかりませんっ…」
「だから、教えてやるって言ってんの。もう一度恋愛してみる気ないのか?」
「ありません!」

柊の触れる顎にだけ異常なまでに熱が集中して先ほどとは違う涙が出そうだった。
琴葉の脳内はパニックだった。
疑問符ばかりが浮かび、どれも消化しないまま新たなそれが生まれる。
何一つ理解できないまま、柊によって思考回路が破壊される。
もう限界だった。

「あ、そうだ。うちに忘れ物あるんだ」
「忘れ物?」
「そう。時計」

琴葉は、はっとして柊から無理やり離れると自分の手首を見た。
確かにない。鞄の中に入れたかもしれないが、昨日外した記憶がなかった。シャワーを浴びたときには既にしていなかったからその前に外したということになる。
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