君は残酷な幸福を乞う
「若葉!?どうした?
そんなに俺に会いたかった?
ごめんね…寂しい思いをさせたね……」
若葉を抱き締め、ゆっくり背中を撫でる琉軌。

「違うの!」
「ん?」
「琉軌、私……」

若葉は、全てを琉軌に話した。
李々子に久しぶりに会い、なんとか力になりたくてお金を貸し続けたこと。
しかし騙され、李々子の彼の為に貯金もくずしていたこと。
それをずっと、琉軌に隠していたことを━━━━━

「そう…
許せないな……あの女…!」
「ごめんね…ずっと、黙ってて……」
「………」

それまでずっと琉軌の胸に顔を埋めていた若葉。
なんとなく琉軌の雰囲気が重くなった気がして、顔を上げた。
「え━━━━━━琉軌……?」

それは、若葉が初めて見る琉軌の恐ろしい表情だった。
正確には、表情ではなく雰囲気。
表情だけでいうと、普通のいつもの琉軌だ。

でも、雰囲気が恐ろしかった。
闇に沈められそうな程の、恐ろしさだ。

次の日、李々子と恋人は亡くなった。

今まで他人を誘導して犯罪をおかしていた琉軌。
けっして自分は手を汚さなかった、琉軌。
李々子は自分と若葉を、ここまで育ててくれた母親代わりのような人。
そんな唯一の家族のような人を、初めて琉軌自身が殺めたのだった。

李々子の遺体を前に琉軌は、静かに涙を流していた。

琉軌と若葉にいつも優しく、時には厳しく接しずっと傍で包み込むように愛してくれた人。
今まで沢山の犯罪を犯した琉軌が、他人に手を汚させていた琉軌が、初めて自分の手を血で染めた。

「琉軌」
瑞夫が琉軌に声をかける。
「ん?」
「大丈夫?」
「うん」
「後は、部下に始末させとくから」
「うん」

「車、回してくるね」
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