ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


最近、毎日のようにバスケ部のほうへ言ってる渚。


高校に入ってからは体育以外でやってないから、体がなまってるって言って。

朝学校行く前に走りに行って、夕方部活から帰ってきても走りに行ってる。


「まあ、昔プロに引き抜かれそうだったってことは、久遠にもそれなりのプライドがあるんじゃないの?」


「うん……」


わかってる。

それは、わかってるんだけど……。


「それにほら、大好きな彼女に、かっこ悪いとこ見せられないじゃん」


「そ、それは知らないけど……」


とにかく、最近渚の生活の中心は、ぜんぶバスケだから。


『朝は早いし、夜は遅いしで、むぎの負担にはさせたくないから、練習試合が終わるまでは、うれしいけど、無理に俺に合わせて生活しなくて大丈夫だから』


渚が部活に参加するって決まってから次の日の朝。

早朝、走りに行く渚を見送ろうと思って、私も起きたら、ふわふわ頭をなでられて、そう言われた。


『それでむぎが体調崩したりしたら、そっちの方がいやだし、心配だから。な?』


『で、でも、渚におはようのキスとか、できない……』


キャンプから帰ってきてすぐのことで。

もうずっと、渚にふれてもらえてなくて、渚不足で。

渚が足りない。


『っ〜、なんっで、こんなときばっか素直になるかな、俺の彼女は』


『渚……?』


『はぁ……もう、かわいすぎだって、まじで。
試合終わるまで我慢するって決めたの、ぜんぶ揺らぐじゃん』

『行きたくなくなるし、夜も寝かせてあげられなくなる』


眠い目をこすっていたら、ぎゅうっと抱きしめられて、耳元で甘い吐息をはいた渚。


『ただでさえ、症状がなくなって、むぎにさわりたくてしょうがないのに。俺、今人生で最大の危機に直面してる』


『ふふっ、なにそれ』


『笑うなよ。むぎがほしくて死にそうなんだから』


『っ、ん……』


落ちてきたのはふれるだけの優しいキス。

もっと、もっとほしい。


『1週間。あと1週間だけ待ってて』


『うん……』


『練習試合が終わった夜、もう我慢しないから』
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