ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


「そっか……だから今日の朝、珍しく1人で来たんだ?」


「うん……」


そして今日。


昨日、キスされて突き飛ばして。


小学校のときからずっと同じだった登下校。


1人で登校したのは、渚が体調不良だったり、家の用事で休みだったとき以外、初かもしれない。

渚を一方的に避けて登校したのは、今日が初めて。


「渚くんとは、あれから話したの?」


「ううん……」


スマホにもメッセージは来てなかったし、あれからうちに来ることもなかった。


「まあ、むぎの複雑な気持ちもわからないわけではないけど……久遠と、ちゃんと話すべきなんじゃないの?」


「そう、だけど……」


渚に告白しない、ふれられないようにって決めてたのは自分で。


でも渚に告白されて、夢みたいに喜んで気持ちに応えたのも自分。


やっと。

やっと両思いになれたと思ったのに。


この異常体質のことを忘れていたのも、紛れもなく自分で。


急に突き飛ばされたと思ったら泣いて、避けられて。


渚はどう思っただろう。


ちゃんと理由を説明しなきゃ。

この体質のことを説明しなきゃ。


そう、思うのに。


引かれたくない。

嫌われたくない。


この気持ちばかりが先走って、うまく話せる自信がない。


「むぎ自身にしか分からない悩みだから、あたしがどうしろって、言えたわけじゃないけど……」


「うん……」


「久遠は、むぎの体質のことを聞いただけで、離れてくような男じゃないよ」
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