すべてが始まる夜に
「ちょっと茉里どういうこと? もう羨ましすぎる! 詳しいことはごはん食べながら聞くから、早く社食行くよ!」

いきなり腕を掴まれ、私を席から立ち上がらせるように引っ張る。

「葉子、どうしたの? 何かあった?」

「いいから、話はあとから! 早く行かないと席も時間もなくなっちゃう」

いつものように若菜ちゃんと一緒に3人で社食に行き、入り口に展示されているメニューを見て何を食べようかと考える。今日は麺類よりお米の気分かなと中華丼を注文すると、珍しく3人ともが同じメニューを注文していた。

早速空いているテーブルを見つけて3人で座る。
椅子に座った瞬間、葉子が待っていたかのように口を開いた。

「茉里聞いたよ! 松永部長と一緒に出張に行くんだって? 松永部長と出張なんてもうマジで羨ましい。ほんとに羨ましすぎる。2人で福岡に出張なんでしょ?」

どこから聞いたのかと思い若菜ちゃんに視線を向けると、私じゃないと言わんばかりに真剣な顔をして必死に首を振っている。

「葉子、出張の話って誰から聞いたの? さっき決まったんだけど」

「誰からって、吉村が言ってたよ。さっき出張の精算の仕方を経理に聞きに来ててね、吉村が出張の話をしてるからおかしいなって思って聞いたの。だって事業戦略って出張のない部署じゃない? そしたらさ、これから事業戦略でも出張があるって言うのね。しかも自分の出張が終わった後は茉里が部長と一緒に出張に行くって言うじゃない。もうびっくりしたわけよ。だってあの松永部長と2人で出張だよ。羨ましすぎるでしょ」

吉村くんが話をしたのかと納得したものの、葉子の興奮度合いは全く収まらない。私だけでは物足りないのか、若菜ちゃんにまで「羨ましすぎる」と話をしている。
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