すべてが始まる夜に
「葉子、出張だけど最初だけ部長が同行してくれて、あとはひとりで行くようになるみたいだよ。それに吉村くんだって部長に同行してもらっての出張だし、これから若菜ちゃんもそうなると思うよ」

「えっ? ほんと? 若菜ちゃんも松永部長と一緒に出張に行くようになるの?」

「なんか話の内容を聞くとそうみたいです。私はいつになるかわかりませんけど」

「そうなんだ。若菜ちゃんも部長と一緒に出張に行くようになるんだ、羨ましいなー。私も経理じゃなくて事業戦略部に行きたーい」

あまり興味がなさそうに答える若菜ちゃんに、葉子は拗ねたような顔をして中華丼にスプーンをグサグサと刺している。

「葉子さん、それより吉村さんどうでした? 元気でした?」

若菜ちゃんがなぜか急に葉子に吉村くんの様子について尋ね始めた。

吉村くんって体調悪かったのかな?
さっきも若菜ちゃん、吉村くんのこと聞いてたよね?
でも心配しているわりには楽しそうな顔してるけど……。

「それがさ、出張に行くこと自体は喜んでいたけどね。なんか複雑そうだったよ。そりゃあそうだよね」

急に意味深な笑みを浮かべ始めた葉子と、それに同調するかのように「やっぱりそうなりますよねー」と大きく頷く若菜ちゃん。

「ねぇねぇ、吉村くんって体調悪かったの? 元気って?」

「茉里はそんなこと気にしなくていいから。吉村はこれから体調が悪くなるんじゃない?」

「えっ? どういうこと? これから体調が悪くなるって?」

「だから吉村の話なんてもういいの。それよりさ、松永部長と出張ってことは宿泊するホテルも一緒ってことでしょ? きゃー、想像するだけで興奮しちゃう」

両頬を押さえながら葉子が悶絶している。

「だって、あの松永部長と夜を過ごせるんだよ。私だったら絶対ホテルのバーに誘っちゃう。あんなイケメンとホテルのバーでお酒を飲めるなんて最高じゃん」

「確かにそうですよね。松永部長はウイスキーとかロングカクテルとかが似合いそうですよね」

若菜ちゃんまで葉子と一緒になって楽しそうに話し始めた。
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