すべてが始まる夜に
「ちょっと茉里、なに興奮してるのよ。松永部長とのアレ、想像したんでしょ」

「そっ、想像なんかしてないって。それに興奮もしてないから!」

「大丈夫、大丈夫。茉里もさ、彼氏と別れてから長いじゃん。久しぶりにシテみるのもいいかもよ。久しぶりに抱かれるのが部長だと最高じゃない?」

「ちょっ、ちょっともう葉子ってば!」

葉子も若菜ちゃんも私がまだ男性経験がないことは知らない。学生時代に彼氏がいたことがあると話をしたら、もう経験済みだと思っているみたいだ。

何度か話そうとはしたけれど、話すタイミングもなくて、結局こういう話になるとどう返していいかわからなくなってしまう。もう27歳だというのに──。
やっぱり自分だけが遅れているみたいで恥ずかしい。

「葉子、言っとくけど出張は泊まりじゃなくて日帰りみたいだから。だから葉子の考えているようなことはありません!」

「えっ? そうなの? なんだつまんない」

「つまんないじゃなくて仕事なの!」

ほんとに茉里は真面目なんだから。ねぇ、若菜ちゃん──という葉子に、早く食べなきゃお昼時間終わっちゃうよ、とせかしながら私たちは残りの中華丼を食べ始めた。
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