すべてが始まる夜に
「これ、すごく美味しーい」

あまりの美味しさに思わず部長に向かって目を見開く。想像していた以上の美味しさだ。
ふわふわのパンの間に程よく食感を残したマヨネーズ味のタマゴサラダ。塩胡椒だけでなくほんのりとコンソメがきいていることで味がしっかりと纏まり、そして主張しすぎてないブラックペッパーがいいアクセントになっている。

「ほんとだな。これ、旨いな」

「ですよね。ウチの野菜たっぷりのローストビーフサンドも美味しいですが、それに匹敵するくらいインパクトありますね」

「だな。たまにはこうして他店のカフェに行くのも勉強になるな」

部長はあっという間にタマゴサンドを食べ終えて、次は海老とアボカドのフォカッチャを食べ始めた。

「部長、お客さんは若いカップルが多いみたいですね。それに年配のご夫婦も」

「休日はここで朝食を取るって意味合いもあるんだろうな。このタマゴサンドなら食べに来たくなるだろうし、それにここは店舗も大きいし駐車場も完備されている。たまの休みにこうしてゆっくりと食事をしているんじゃないか? おそらく俺たちもそう思われているんだろうけどな」

えっ? と聞き返すと、「さっきから部長って呼んでても誰も気にしちゃいないだろ?」と部長が頬を緩めた。

そうだ。さっきまで偵察ってバレたらどうしようって思ってたけど、すっかり忘れてた。
周りのカップルを見ると、楽しそうにお話をしながらコーヒーを飲んだり、タマゴサンドを食べている。

私たちもあんな風に見えてるってこと?
なんか、で、デートみたいじゃん……。

急に恥ずかしくなって、顔が熱くなってきた。
気を紛らわせるようにマグカップを手にとり、コーヒーを口に運ぶ。

「白石、顔が赤いぞ。どうした? 熱いのか?」

「い、いえ、大丈夫です」

私は引き攣った笑顔を浮かべると、ドキドキと煩く動く心音を静めるように、スモークサーモンのベーグルを口に入れた。
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