すべてが始まる夜に
「部長もそう思います? ちょっと苦いですよね。雑味があるというか……」

「だな。まあこういうチェーン店はウチもそうだが仕方がないよ。ただ、ここは温度設定がちょっと高いんじゃないかな。苦味が強いってことは……」

「温度が高いと苦くなるんですか?」

「ああ、湯温が高いとコーヒーの苦みや渋みが強くなる。低いと苦みや渋みは軽減されるが、その代わり酸味や甘味も感じられなくなって味気がなくなる。豆がよければ美味しいコーヒーだと思っているヤツが多いが、実はお湯の温度って大切なんだ。ウチはかなり湯温の研究にはこだわっているからな」

へぇー、そうなんだ。知らなかった。
部長って本当に何でも知ってるんだ。

また部長から知らなかった知識を教えてもらって、すごい!と尊敬してしまう。

またまた尊敬しながら部長の顔をチラチラと見ていると、店員さんが、お待たせいたしました──と言いながらトレイにのせたフードを持ってきた。
テーブルの上に置かれた3つのお皿を見て、部長が驚いたように私の顔を見る。

「白石、こんなに頼んだのか?」

「はい。周りのお客さんを見たらこのタマゴサンドを結構食べている人が多くて……。あとは店員さんにどれが美味しいのかを聞きました。部長、はんぶんこしましょ」

私はフォークとナイフを手に取ると、半分ずつに分け始めた。お皿の上にタマゴサンドと、スモークサーモンとクリームチーズのベーグル、えびとアボカドのフォカッチャを半分ずつ乗せる。

「部長、このタマゴサンド、ほとんどのお客さんが頼んでいたんです。多分一番人気なんだと思います」

たっぷりのタマゴサラダが柔らかい食パンに挟まれ、厚みがかなりある。気をつけて食べないと中の具がこぼれてしまいそうだ。

私は「いただきまーす」とこぼさないようにタマゴサンドを手で掴むと、パクッとかぶりついた。
< 185 / 395 >

この作品をシェア

pagetop