すべてが始まる夜に
「部長、どうぞ。これなら食べれますよ!」

部長は驚いたように目を丸くしている。

「あ、あの、白石、これは……」

「早く食べてください。じゃないと蜂蜜が落ちちゃう……」

私の言葉に部長は視線を彷徨わせながらパクッとパンケーキを口に入れた。

「どうです? 美味しいと思いませんか? 部長、こんな感じのパンケーキお好きですよね?」

「あ、ああ……」

拳を口元に添えながら口をもぐもぐを動かしているけれど、美味しいと笑顔を向けてくれるわけでもなく、私が思っていたような反応ではなかった。
もしかしてあまり好きじゃなかったのだろうか?

「部長、あまりお好きじゃないですか?」

「いや、好きだけど……。確かに懐かしいって感じで旨いな」

旨いって言ってるけど、やっぱりテンションが低い。
どうしてなんだろう?

テンションの低い理由がわからないまま、今度はアップルパイにアイスクリームを乗せると、また片手を添えながら部長の口元に持っていった。

「部長、今度はアップルパイです。このアイスとのコラボ、本当に最高ですから! どうぞ」

拳で口元を押さえ、んんっ──と咳払いをした後、パクッと口に入れた部長に、どうです? このコラボ最高ですよね──と顔を覗き込むと、口を動かしながら静かにうんうんと頷いた。

だけどやっぱり笑顔は見せてくれないし、先ほどのパンケーキの時と同じでテンションも高くない。
タマゴサンドを食べた時にはあれだけ美味しそうな顔をして絶賛していたのに。

「もしかして部長、スイーツってあんまり好きじゃないんですか?」

「いや、好きだけど」

再び聞いても好きだと答えてくれるのに、テンションは低いままだ。
気になるけれど、理由が分からずあれこれと考えてしまう。

お腹がいっぱいなのかな?
でもそしたら、2つ頼んではんぶんこするか? なんて言わないよね?
首を傾げたまま、今度はパンケーキを自分の口に入れる。

あー、やっぱり美味しい!
こんなに美味しいのに、どうして部長はテンション低いの?

私はナイフとフォークを置くと、カップを手に取り、カフェオレを口に運んだ。
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