すべてが始まる夜に
カフェの視察
日曜日の朝、私は電車に乗って吉村くんと待ち合わせをしている目黒駅へと向かっていた。
休日の朝ということもあってか車内はそこまで人は多くなく、座席にもまだ少し余裕があり、空いている席に座って流れていく景色をぼんやりと眺める。
窓の外には気持ちいいほどの青空が広がり、今日は11月とは思えないほどの気温が高くていいお天気だ。

やっぱり今日はこの服装で正解だったかな。

昨日はセーターを着ていた私も、今日は黒いカットソーにラベンダー色のアシンメトリーのスカートを合わせた少し軽めの服装にしてみた。
出掛ける前にこの服装だと寒いかなと心配したけれど、どうやらその心配もなさそうだ。

上野から目黒までは電車で乗り換えもなく約30分で到着する。遅れないようにと9時50分には到着するように逆算して行ったのに、駅に到着すると既に吉村くんは改札の外で待っていてくれていた。

「おはよう。ごめんね、待たせちゃったかな?」

「いや、約束は10時だし、俺もさっき来たところだから」

朝から爽やかな笑顔を見せてくれる吉村くんは、ベージュのブーツカットのチノパンに白いシャツとお洒落な黒のパーカーを着ていた。いつも見ているスーツ姿と違って私服だと見慣れていないせいか、なんだかとても不思議な気がしてしまう。思わず上から下まで見ていると、「なんか変か?」と尋ねられ、慌てて首を振った。

「そうじゃなくて、いつもスーツ姿しか見てないから、なんだか新鮮だなって思って」

吉村くんが嫌な思いをしないようにと、いつもよりも増して笑顔を向ける。

「白石も会社にはその服、着てきたことないだろ?」

「うん、よく分かったね。ちょっとこのスカートはラベンダー色が目立つかなと思って会社にはまだ着て行ってないんだ」

「そうか? 別に目立つほどでもないし、よく似合ってると思うけど」

「ほんと? じゃあ会社にも着て行こっかな」

たわいのない話をしながらお店に向かって歩いていく。
同期ということもあってか、部長と一緒にいるときのようにドキドキすることもさせられることもなく、緊張することもない。

駅の大きな道から脇道へと入り5分くらい歩くと、大きなガラス張りの建物が見えてきた。
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