すべてが始まる夜に
「告白……、ですか? 告白ってあの……相手に “好き” とか言うあの告白のことですか?」

「それ以外に何の告白があるんだ? 実は俺、柴犬のことが好きでたまらないんだ ──、みたいな告白を吉村がするわけないだろ?」

「そっ、それはそうですけど……」

「吉村がわざわざ休みの日にカフェに行こうと誘ってきたのは、茉里に告白しようと思ってたんじゃないのか?」

「ちっ、違いますよ。そんなことあるわけないじゃないですか。今日はカフェの視察だったんです。新店舗のフードについて一緒に考えてみようって。そんなの絶対ないです。ほんとは今日、もう一軒カフェの視察しようって誘われたんですけど、部長との約束の時間に遅れそうだったから断って帰ってきたんです。告白しようと思ってる人がもう一軒カフェの視察をしようなんて言いませんよ。部長は私がモテないのよくご存知じゃないですか? だいたいモテてたらあんな恥ずかしいレッスンなんて部長にお願いしてません!」

もう! と頬を膨らませて部長の顔をじろりと睨む。
それに対して涼しい顔をしてガリガリと音を立てながらハンドルを回している部長が、口元を緩めてチラッと視線を向ける。

「でもあり得ない話じゃないだろう? もし吉村から告白されたらどうするんだ? 付き合うのか?」

「告白されることなんてないと思いますよ。私たち同期で仲がいいだけだし、お互いそんな風に思ったことないし。それより部長……、もしかして、レッスンお願いしてるのってご迷惑ですか?」

「はっ?」

ハンドルを回していた手を止めて、きょとんとした顔で私を見た。

“吉村くんに告白されたのか?” とか、 “吉村くんから告白されたら付き合うのか?” と聞いてくるくらいだ。
もしかしたら部長は、あのレッスンが迷惑で早く終わらせたくて、私が誰かに告白されて付き合ってほしいと思っているのかもしれない。

「ご迷惑でしたらレッスンは今月いっぱいで終わりにしてもらって大丈夫です。すみません……」

「ちょっ、ちょっと待て、意味が分からない。何でそうなるんだ?」

部長は完全にミルから手を離して、焦ったように私の顔を覗き込んだ。
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