すべてが始まる夜に
「来週の土曜は10時前にここを出発しようと思う。新幹線に乗ったら昼前には熱海に着けると思うから、あっちで昼メシ食べて、少し観光してから旅館に行こう」

「あ、熱海……、ですか?」

クリスマスということで、てっきりどこかのレストランでごはんを食べて、その近くのホテルに泊まって……というようなことを勝手に想像していたので、熱海と聞いて驚いてしまった。

熱海って言ったら温泉だよね?
温泉に行くってこと?

「ああ、熱海の温泉だ。そしたら一緒に風呂に入れるだろ? 露天風呂付きの部屋を予約してあるから」

「いっ、一緒にお風呂に入るの……?」

「そんな驚くことはないだろ? 最初はここの風呂より露天風呂の方が一緒に入りやすいだろ」

お部屋に露天風呂があるってことは、絶対に部長と一緒に入ることになるよね?
うわぁ、どうしよう。緊張しちゃう……。

「だから金曜の夜はさ、旅行の準備をしてからここに来いよ」

穏やかな表情でニコッと笑顔を向けてきた部長に、私は忙しない心臓の音を感じながら静かに頷いた。
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