すべてが始まる夜に
旅行の話を聞いてからの私は、落ち着かない日々を過ごしていた。
会社で仕事をしていても、部長の顔を見るたびに旅行のことを思い出して、そわそわとしてしまう。
今週末にはほんとに部長と一緒にお風呂に入ることになるのだろうか。

露天風呂付きのお部屋って言ってたけど、一緒に入るとなったらお部屋で服を脱ぐの?
それって、一緒に服を脱いで2人で入るってこと?
ちょっ、ちょっと待って。
そんなの恥ずかしくてできないよ……。

私が先に入る?
ダメダメ、そんなことしたら服を脱いでるとこ見られちゃうじゃん。
じゃあ後から私が入る?
そしたら先にお風呂に入ってる部長にしっかり裸を見られるってことでしょ?
あー、どうしよう……。

会社では絶対に態度に出さないように気をつけていたはずなのに、つい両手で顔を覆って溜息を吐いてしまい、そんな私の姿を見た若菜ちゃんが声をかけてきた。

「茉里さん、どうかしました? 何か悩みごとですか?」

「あっ、ううん、違う。そんなんじゃないの。ごめんね」

すぐに笑顔を作って、何でもないように首を横に振る。

「ならいいですけど。でももし何かあれば言ってくださいね。頼りにならないかもしれないですけど、話くらいは聞けますから」

「ありがとう若菜ちゃん、頼りにならないことなんてないよ。いつもいっぱい助けてもらってるし。でもほんとに何でもないの。心配かけてごめんね」

若菜ちゃんは「わかりました」と頷くと、「あの、茉里さん、ひとつ聞いていいですか?」と尋ねてきた。
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