すべてが始まる夜に
その方向に視線を向けると、本殿の屋根に近い部分に小さなハートマークがある。

もしかして、縁結びの神社だからハートマークがあるの?

「悠くん、見て見て。あそこの屋根の下のところに、ハートマークがあるんだけど、縁結びの神社だからハートの形にしているのかな?」

「あれは確かハートマークじゃなくて、日本古来から伝わる猪目っていう文様だったんじゃないかな。昔親父にそう聞いたような気がする……」

「いのめ?」

「ああ、俺も詳しいことはよくわからないけど、イノシシの目ってハートの形をしてるだろ? だからあれはイノシシの目を意味していて、古来より魔除けのために使われているんだって。多分ここだけじゃなくて他の神社にもあるはずだぞ」

「へぇー、そんなの全然知らなかった。あれは猪目っていうんだ……。悠くんって本当に何でも知ってるね。やっぱり尊敬しちゃうな」

「たまたま聞いてたから知ってただけだよ」

「そんなことない。何を聞いてもいつも教えてくれるもん。でも縁結びの神社でハートマーク見つけたら、なんだか嬉しいね」

そうだな──と微笑んだ部長が、繋いでいる手にぎゅっと力を入れた。
それに反応するかのように、胸の奥がドクンと音を立てる。

やっと私たちの順番がまわってきて、部長と一緒に本殿の前に立ち、お賽銭を入れて、神社の形式に則ってきちんと手を合わせ、目を閉じてお願いをした。

『3月に福岡でカフェラルジュの3店舗目が開店します。部長と一緒に企画した新店舗です。どうか上手くいきますように──』

目を開けてお辞儀をすると、部長は既に参拝を済ませていたようで、次の人のために端に寄って待っていてくれた。

「すみません。お待たせしました」

「しっかりお願いできたか?」

「はい。しっかりお願いしてきました。悠くんは?」

「俺もしっかりお願いしたよ。それより茉里、あそこ見て。あれはハートマークみたいだぞ」

部長が指さす方に視線を向けると、そこには落ち葉で作ったハートの形があり、多くの人たちが写真を撮っていた。
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