すべてが始まる夜に
*
「茉里、若菜ちゃん、ランチ、行かない……?」

いつも元気いっぱいな葉子が落ち込んだ様子で私たちのフロアにやって来たのは、いつもの11時半を過ぎたころだった。

「どうしたの? 葉子、今日は元気ないじゃん」

「社食で話す……。早く社食行こ……」

声にも張りがなく、がっくりと肩を落とし、珍しくテンションも低いままだ。私は熱海のお土産を持って、葉子と若菜ちゃんと一緒に社食に向かった。

最上階にある社食のフロアに到着し、列に並んでメニューを見ながら何を食べようかと考える。
日替わりの豚しゃぶランチに、人気のカツ丼、鯖の味噌煮定食に、定番のカレーと麺類。
今日は温かいものが食べたいなと思い、山菜めかぶうどんを注文してトレイを持ってテーブルに着くと、珍しく葉子も私と同じうどんを注文していた。

「葉子、今日は大好きなカツ丼にしなかったの?」

「そうですよー。どうしたんですか、葉子さん」

若菜ちゃんは人気のカツ丼を選んでいるというのに、いつも率先してカツ丼を注文する葉子がそれを頼まないなんてよほどのことがあるようだ。

「もうね、さっきショックなこと聞いて今日は食欲ない……」

「ショックってどうしたの? ちゃんとごはん食べないと元気でないよ」

「ごはん食べても元気なんかでないよ……。茉里はわかんないけど、若菜ちゃんもきっとショックだと思うよ」

「葉子さん、私もショックってどういうことですか?」

「もうね、聞いたらびっくりするよ。会社来る楽しみがなくなるもん」

葉子は、はぁーと重い溜息を吐いた。
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