すべてが始まる夜に
「葉子、早く食べないとお昼時間終わっちゃうよ。あっ、そうだ、忘れないうちに先に渡しとくね。これ2人にお土産」

私は葉子と若菜ちゃんの前に熱海で買ったいちごのバームクーヘンを置いた。

「茉里、お土産って、どこか行ってたの?」

「う、うん……。ちょっと熱海まで……」

「えっ? 熱海? 温泉? っていうか、昨日と一昨日ってクリスマスとクリスマスイブだよね。もっ、もしかして、彼氏と……?」

急に元気になった葉子が、パッと目を見開いた。
恥ずかしくて返事がまともにできず、私は俯きながら小さく頷いた。

『うそっー! 彼氏!!!』

急に葉子と若菜ちゃんが大きな声をあげ、社食にいた人たちが一斉にこっちを振り向いた。

「こっ、声が大きいって……」

3人で小さくなりながら、振り向いた人たちに「すみません」と頭を下げる。

「ちょっ、ちょっと、どういうことよ。いつから? どうして教えてくれなかったの?」

「そうですよ、茉里さん。いつからなんですか?」

「いつからって言われても……」

「そんなもったいぶらないで教えてくれてもいいでしょ。ねぇねぇ、どんな人?」

「す、すごく優しい人だよ……。そ、それにすごく尊敬できるし、一緒にいて安心できる人……」

「なに、その惚気た顔……。もう、羨ましすぎるー!」

さっきまでのショックな葉子はどこにいったのか、両手で口元を押さえてニヤついている。
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