すべてが始まる夜に
「まあ、幸せな茉里には松永部長のことなんて関係ないもんね。……それにしても茉里、なんで今日はタートルネックなわけ? 会社にはいつもそんな服着てこないのに珍しいじゃん」

「そっ、そんなことないよ……」

「ほんと? だいたい女性がタートルネックなんか着て会社にくるのは、よっぽど寒い日か、彼氏にキスマークをつけられて隠せないときだからね。ねっ、若菜ちゃんもそう思うでしょ?」

「そ、そうですね……」

珍しく若菜ちゃんは葉子に強く同意せず、相槌を打つ程度だ。

「茉里、ほんとはその下にキスマークが隠れてるんでしょ。さては彼氏に熱海でいっぱいつけられたな」

ニヤニヤとこっちを見る葉子に、私は思わず首元を隠すように両手を持っていった。

「そ、そんなことないから!」

その姿に葉子と若菜ちゃんが顔を見合わせる。
そして、2人が口元を押さえて笑い始めた。

「茉里、あんたのそういう天然なとこ、大好きだわ。最高!」

「ですね、葉子さん」

「若菜ちゃん、あいつ、大丈夫かな?」

「大丈夫じゃないと思います。撃沈ですね」

「でも、さずがにこれは気づかないでしょ」

「それがですね、半分気づいてそうなんですよね。実は私、朝、その話題を出しちゃって……」

「えっ? それマジで? 若菜ちゃん」

また葉子と若菜ちゃんが私のわからない話をし始めた。
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