すべてが始まる夜に
「ねぇ、さっきからそれ何の話なの?」

「だから茉里は知らなくていいことなんだって。それよりさ、今日が会社だとわかっててキスマークつける彼氏って、独占欲強すぎじゃない? 茉里、その彼氏大丈夫?」

「えっ? 大丈夫って……?」

「普通さ、彼女が仕事に行くのにキスマークなんてつけないよ。そんなことしたってバレバレだし、社会人として恥ずかしいじゃん」

やっぱり私と同じことを葉子や若菜ちゃんも思ってる。
私も部長にそう言ったのに……。

「私もそう言ったんだけど……。でもみんなに見られてもいいって……。聞かれたら彼氏につけられたって言ったらいいって……」

私がそう言った瞬間、2人ともが呆然とした顔をして固まってしまった。

「はっ? なに、その彼氏? 頭おかしいの? それとも相当独占欲が強くて茉里を誰にも取られたくないわけ?」

「葉子さん、おそらく両方じゃないですか? だって彼女が茉里さんですよ。彼氏は誰かに取られるんじゃないかってすごく心配なんだと思います」

「そうかもしれないけど……。それにしてもめっちゃ茉里の彼氏が見てみたい。そんなことする彼氏っていったいどんな顔してるの? どうせ自分に自信がないからキスマークなんかつけて、 “茉里は俺のもの!” なんて思ってるんだろうね」

私はますます部長が彼氏だなんて言えなくなってしまい、まだ半分ほど残っているうどんを食べるのをやめ、箸を置いた。
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