すべてが始まる夜に
彼氏の正体は……
部長が彼氏だということが誰にもバレることなく年末、お正月を迎え、新しい年が始まった。

年末は長野の実家に帰り、両親に今付き合っている人がいること、その人は会社の上司でとても尊敬できて優しい人だということ、そして将来は結婚したいと思っているということを伝えた。

さすがに同棲をしているとまでは言えなくて、少し後ろめたい気持ちになってしまったけれど、お父さんもお母さんも全く恋愛の気配がない娘のことがかなり心配だったようで、とても喜んでくれた。


*
「悠くん、今日の新年会のあとって二次会に行くの?」

部長との生活も少しずつ慣れてきはじめた頃、私はいつものように会社に行く準備をしている部長に声をかけた。

毎年、1月の第2週目の金曜日に私たちのフロアにいる部署だけで新年会が行われ、営業部と開発企画部と合同で10階の社食を貸し切って開催されるのだ。
ひとつ下のフロアの総務部や経理部からも任意で参加できるので、営業部の男性と交流を持ちたい女性社員は毎年結構参加している。
もちろん葉子もそのひとりだ。

「二次会? 行かない予定だけど。でも水島さんに誘われたらちょっとわからないな。多分、水島さんは早く家に帰りたいだろうから誘われないとは思うけど」

慣れた手つきでかっこよくネクタイを締めながら、首元を鏡でをチェックしている。

それにしても今日もまた私がプレゼントしたあの淡いピンク色のネクタイだ。
こんなにしてくれるのはうれしいけれど、最近このネクタイばかり会社にしていくので、周りに変に思われないか不安になってしまう。

先日そのことを伝えたら、「俺はこのネクタイが1本あればいいよ。他のネクタイなんていらないし」と当たり前のように言われてしまい、何も言い返せなくなってしまった。
< 339 / 395 >

この作品をシェア

pagetop