すべてが始まる夜に
「あっ、お疲れさまです」

いち早く気づいた葉子が溢れるような笑顔を2人に向ける。
葉子が声をかけたことで2人ともが立ち止まり、水島部長がにこやかに口を開いた。

「ああ、お疲れ。今からみんなで二次会に行く相談?」

「そうなんです。もし良かったら部長たちもご一緒にいかがですか? この近くのお店なんです」

お店のある方向を指で差す葉子に、水島部長は申し訳なさそうな顔を向けた。

「せっかくだけどごめんね。俺は家で奥さんが待ってるから遠慮しておくよ」

「そうなんですね。残念……」

誘いをあっさりと断った水島部長に、葉子ががっくりと肩を落とす。

「俺は行けないけど、悠樹は大丈夫だと思うよ。悠樹、お前は行ってきたらどうだ? 心配だろ?」

水島部長は何か含みのあるようなニヤッとした顔を松永部長に向けた。それに対して松永部長は涼しい顔をして「そうですね」と答えている。

「みんな、悠樹が参加するらしいからよろしくな。じゃあ俺はお先に失礼するよ。お疲れ」

水島部長はそう言って片手をあげると、神田駅の方へ向かって歩いて行った。

「松永部長、ほんとに参加してくれるんですか? めちゃうれしいー」

「1時間くらいしか参加できないと思うけど……」

「大丈夫です。少しだけでも参加してくださるだけでうれしいですから! だって部長、彼女が待ってますもんね?」

葉子の言葉に、部長がチラッと私の顔を見てニコッと笑う。

こんなところでそんな顔したらみんなにバレてしまうのではないかと、もう気が気じゃない。

「そうなんだ。可愛い彼女が待ってるから」

再び部長は嬉しそうに私の顔を見た。
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