すべてが始まる夜に
「悠樹、元気だった？ 私、ずっと悠樹に会いたかったの……」

俺もだ──とでも言うと思っているのか、それとも演技なのか、瞳を潤ませている。

「悠樹と別れてから、私すごく後悔してたの」

今さら何を言っているのか、よくこんなことが言えるよなと思いながら、この図々しさに呆れ返ってしまう。

「どうして何も言ってくれないの？ 私は悠樹に会いたくて堪らなかったのに」

涙を見せれば許されると思っているのか、わざとらしく涙を拭う振りをする麗香に、俺は蔑むような目を向けた。

「何の話でしょうか？」

俺の冷たい声に、麗香の表情がみるみる変わっていく。

「どっ、どうしてそんな冷たいこというの？」

「おっしゃられている意味がよくわかりませんが」

「ちょ、ちょっと悠樹、何よその言い方。私のこと馬鹿にしてるの？」

「馬鹿にするってなんのことでしょうか？」

「はぁ？ 悠樹が私の電話に出ないからここまで来たっていうのに、何なのよ！」

やっと本性を現したのか、麗香が俺をキッと睨んだ。

「仕事の話に来られたんですよね？ 他に何の話があるんでしょうか？」

「あっ、そう。福岡で見たあの彼女が原因ってことね。 あの子がいるから私と別れたかったわけ？」

茉里の話が出た途端、俺は感情が抑えきれなくなり、思いっきり不機嫌な顔を麗香に向けた。
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