すべてが始まる夜に
「お前、人前であんな失礼なことを俺に言い放っておいて、今さらよく俺の前に出て来れるよな? あんなことを言われて、もう一度お前に会いたいと思う男がいるか? そんな男がいたら見てみたいよ。俺はお前に嫌な感情しか残ってないし、二度と顔も見たくない。もう仕事の話は終わったんだ。さっさと帰ってくれないか」

「そう言って私のせいにするわけ? 悠樹は最初から私のこと好きじゃなかったじゃない」

「なんだ、気づいてたのか。その通りだよ。今考えれば好きじゃなかったんだろうな」

「なに、それ……。あの子にはあんな愛しいものを見るような表情(かお)をしてたくせに」

「言っておくがな。お前があのカフェであんな発言しなければ、俺はあいつと付き合うことはなかったよ。お前のおかげで知り合ったんだ。そこだけはお前に感謝するよ」

「どっ、どういうこと……」

俺は小さく息を吐くと、麗香の顔を突き刺すように睨んだ。

「もう話は終わったんだ。帰ってくれないか。こんな仕事に託けて会社に訪ねてこられるのは迷惑だ。それに──。あいつに危害を加えるようなことをしたら俺は絶対に許さない。そんなことをしたらお前を警察に突き出してやるから覚えておけ」

俺はちょうど戻ってきたマネージャーに、「話は終わりましたのでお引き取りください」と告げると、さっさと2人を会社の外に追い出した。


席に戻った俺はそのまま仕事を続け、いつの間にかイライラとしていた気持ちも、麗香が訪ねてきたことさえもすっかり忘れてしまっていた。

そして恒例の新年会が始まり、俺は水島さんにどんな風に結婚式を挙げたのか参考にさせてもらおうと色々聞きだしていた。
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