すべてが始まる夜に
そうだよな。やっぱりこんな話聞きたくないし、嫌だよな……。

「そんな顔するなよ。俺は茉里のことが好きなんだから」

安心させてやるように、腕に力を入れて抱きしめる。
こんなことでしか気持ちを伝えられない自分がとてももどかしくてたまらない。

「どうして……悠くんに会いにきたの?」

おそらく、茉里が一番聞きたかったことだろう。
あのカフェで別れた現場を見ている茉里としては、理解ができないはずだ。
俺でさえ、理解ができなかったんだから。

「俺に会いにきたわけじゃない。仕事の売り込みだよ」

「仕事の……売り込み?」

「ああ、前に福岡のラルジュが開店するときにな、地元で人気のあるモデルを起用してオープニングイベントを行ったんだ。そのときに起用されたのがあいつだ。で、今回3店舗目を福岡で開店するだろ? そのときもまたあいつを使ってほしいと言ってマネージャーと一緒に売り込みに来たんだ」

俺は仕事に託けて俺と話をしに来たということは隠すことにした。
実際に表面上はこの仕事の売り込みが理由だ。

「じゃあ、悠くんと彼女はラルジュのオープニングイベントで出会って、付き合うようになったの?」

こんなことは知られたくなかったが、俺は素直に頷いた。
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