すべてが始まる夜に
マンションに到着し、玄関のドアを開けて茉里を中に入れたところで、後ろからぎゅっと抱きしめる。

「あー、早くこうしたかった……。ごめんな、嫌な思いさせて。不安だっただろ?」

それは俺自身の気持ちを落ち着かせる言葉でもあった。
嫌がることなく、素直に抱きしめさせてくれる茉里に安心する俺がいた。

そして部屋の中に入り、スウェットに着替えた俺は、ソファーに座ると、茉里を自分の膝の上に座らせた。
こうしてちゃんと目を見てこいつを安心させてやらないといけない。

俺は茉里をもう一度抱きしめたあと、「聞きたくないかもしれないけど、俺の話を聞いてくれるか?」と優しく尋ねた。

茉里の腰に手をまわし、愛しい顔に触れながら真剣な表情を向ける。

「さっき宮川が話してただろ? 今日会社に来た人間がいるって」

不安そうな顔をしている茉里が、小さく頷いた。

「あれは茉里も知っている、あのカフェで会ったあの女だ」

茉里の表情が、やっぱり──というような表情に変わる。
本当はこんなことを聞かせたくもないし、俺自身も言いたくないけれど、ここで嘘をついてあとでバレてしまう方がもっと怖い。
嘘をついたことでこの関係が壊れてしまったら、俺は絶対に後悔する──。

「それって、福岡のカフェでも会ったあの人……?」

「ああ、そうだよ」

そう言った瞬間、今にも泣き出しそうな顔をして茉里は俺を見つめた。
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