すべてが始まる夜に
「福岡の美味しいものなら俺がこいつに教える。お前は教えなくていい。それにこいつがここに来るときは、もれなく俺も一緒だ」

「松永さん、なんですか、その溺愛ぶりは……。松永さんってそんなキャラでしたっけ?」

「そんなキャラって、お前が俺のことをどんな風に思っているのか知らないが、俺が溺愛してるのはこいつだけだ」

「うわっ、すごっ。堂々と宣言ですか……。そんな風に宣言されたら、誰も白石さんに声がかけれませんね」

「当たり前だろ。周りの男を排除するために宣言しているんだから。……林、時間がない。空港まで送ったら戻ってくる。それまで頼むな」

「わかりました。こっちは気にしなくていいですから、ごゆっくりどうぞ」

林さんがニヤニヤと笑顔を向けると、「お前に言われなくても、ゆっくり見送ってくるよ」と、部長はそんな冷やかしには全く動じず、涼しい顔で答えて歩き出した。

お店の外に出て、大通りに出たところで、タイミングよく来たタクシーに乗って空港へ向かう。
空港に向かうタクシーの中で、部長は何も言わず、ただ私の手をずっと握っていた。

道路が少し渋滞したせいもあり、予定よりも少し遅れて空港に到着した。出発ロビーの前で部長が私の髪の毛に触れながら優しく微笑む。

「茉里、朝早くから疲れただろ? お疲れさま」

「悠くんこそ疲れたでしょ。最後までいなくてごめんね」

「そうだよな。茉里はどうしても今日中に帰らないといけないんだもんな」

拗ねたようにじろりと視線を向けながら、さっき私が林さんに言ったことを、同じように私に言ってきた。
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