すべてが始まる夜に
今日まで九州に出張ということは、おそらく部長は明日の土曜日か明後日の日曜日に帰ってくるはずだ。なので部長と話ができるのは来週の月曜日以降になる。
部長が不在の間に開発企画部から福岡の新店舗の資料を貰ったこともあり、謝ることもあるけれど、そのことについても部長と相談しておきたい。

来週部長に少し時間を取ってもらって、会議室で新店舗の相談をしようかな。
それで話が終わってから最後に謝らせてもらうしか無いよね。タイミングとしたらその時くらいしかないもん。

色々と算段しながら謝るタイミングを見計らう。
社内でプライベートなことを話すのは公私混同も甚だしいけれど、今回ばかりは仕方がないし、自分自身も早くすっきりしたい。

部長には申し訳ないけれど話を聞いてもらおう──と思いながらマンションに入り、郵便ポストの鍵を開けようとしていたときだった。
再びエントランスのドアが開き、マンションの住人が入ってきた。住戸数があるわりにはあまり住人に会うことはないのだけれど、スーツ姿の男性だったので顔を合わせないように背中を向けて郵便ポストの鍵を回す。

男性は郵便ポストを確認することなく、そのまま鍵で自動ドアを開けて中へ入って行った。

知らない男性と同じエレベーターに乗るの嫌だなと思いながら郵便ポストを閉じる。
今日は階段で上がろうかなと、何気なく自動ドアの向こうに視線を向けると、目に入ってきたのはスーツケースを持った男性の後ろ姿だった。

スーツケースを見て、もしかして?と思い、横顔が見える位置まで移動する。

うそっ。 松永部長?

これは謝るチャンスだと思い、私は急いで鍵で自動ドアを開けて中に入った。
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