愛しの鳥籠〜籠のカギ篇〜
午前9時半。
あと、30分。
緊張のあまり、だんだんお腹が痛くなってきたな…。
うう…って、唸りながら前屈(まえかが)みの姿勢でトイレに行こうとした時、ベッドに放り投げたままだったケータイの着信音が軽やかに鳴った。
「?」
誰だろうとお腹を押さえながらディスプレイを覗くと、そこには「ユキ」と表示されていて、ビックリ慌てて画面をスライドさせて電話に出る。
「ユキ?ど、どうしたの?」
『ラン。…ごめん』
…あ。逢えなくなったんだ。
咄嗟にそう判断して一瞬で酷く落胆したわたしだったけど、ユキはそんなわたしの予想とは裏腹なことを言ってきた。
『実は…、もう着いちゃったんだ。いま、アパートの所に車横付けしてる…』
「…え?」
嘘でしょ?
『…いくらなんでも早すぎだよね。僕、この辺のパーキングに車停めて適当に時間潰すから、ランはゆっくり準備し…』
「出来てる!準備!今行くねっ!」
ケータイ越しにユキがビックリしているのが解ったけど、もう自分の興奮を抑える事が出来なくて、戸締りを素早く済ませ階下を覗くと、白い車が停まってその運転席のドアに背を預けて立っているのは、確かにユキだった。