愛しの鳥籠〜籠のカギ篇〜
「ユキ…、わたし、帰らなきゃーー」
「どこに帰ると言うの…?ランの『家』は『ここ』なのに」
ーーーーーえ?
「ランの家は、ランの居場所はもう『ここ』だよ。ーーううん、もう『ここしかない』。アパートは今日付けで無理言って解約して貰ったし、ランの荷物も明日の朝1番に『ここ』に届くよ」
「ユ…キ…?」
愕然とするわたしが見えてるのか見えていないのか、ユキはまるで美しい歌を歌うように光悦な表情で言葉を紡ぎ続ける。
「ラン、君は僕が初めて恋をした女の子なんだ。僕の人生で最初で最後の女の子。だからもう孤独に怯える事もなければ、他の男の眼に映る必要もないんだよ。君は死ぬまで僕だけのーー。あははっ、なんて素晴らしいんだ…!!」
「っ!」
高らかにその心地いい声を弾ませ笑うユキにわたしは何かを言うつもりで口を開けた。
その次の瞬間にはもうユキの形の良い唇がわたしのそれを塞いでいた。
「っ…、やっ…!」
抵抗すればする程に口付けは深いものへと変わっていって、息もロクに出来ずだんだんと意識が薄くなってゆく。
そんなわたしに気付いたユキはやっと呼吸する事を許してくれた。
だけどーー、
「ああ、つい夢中でキスしてしまった。ランはとても甘いね。最高だよ。ーー唇だけじゃなくて、全部食べたらもっと甘いのかな」
ニヤリと笑んだユキがあっと言う間にわたしを組み敷く。
わたしにはもう抵抗する力も言葉も、何も、何も残ってはいなくて。
ユキは、空が白み始めるまで、わたしを貪り続けた。