愛しの鳥籠〜籠のカギ篇〜
「…っ、お、おねがい、しますっ。お、俺と、別れて…くださいっ…。お願い、しまっ…」
オーダーして運ばれて来たアイスコーヒーをひと口も飲まないまま、「彼氏」はその大きな体をカタカタと小刻みに震わせながら、向かいに座るわたしに頭を下げた。
「…」
わたしは包帯ぐるぐる巻いた両腕を彼氏に見せ付けるように前に出し、その両手に自身の顎を乗せてみせた。
彼氏は頭を下げたまま一向に前を向こうとしない。
その状態がしばし続き、折れたのは、わたしの方だった。
「…わかった。別れてあげる」
そのわたしの言葉で彼氏…元彼は勢い良く頭を上げて、「わたし」と言う呪いが解けてとても晴れ晴れした表情に一瞬にして変わった。
わたしはおもむろに自身が持つピンクのキーケースを取り出し、まだ新しい鍵をひとつケースから外して元彼の前に差し出した。
「これ、返すね」
その鍵をバッと素早くポケットにしまうと、元彼は脱兎の如くわたしの前から去って行った。