あなたの隣を独り占めしたい(続編まで完結)
 私の意見を最優先で受け入れてくれるのにも嬉しくなり、私は佐伯さんの横に並んで山下公園方面へをゆったりと足を向けた。
 休日のせいか公園はカップルが多く、堂々と身を寄せている人たちもいて、こちらがドキドキしてしまう。

(私たちも恋人に見えてるんだろうな)

 少し照れつつも素敵な男性の横を歩けるのはやっぱり嬉しくて、私は夢のような気分で歩いていた。
 すると佐伯さんが足を止め、海と陸を分ける欄干にもたれた。

「ここの眺め、いいな。船と海と空……ちょっとリアルから抜け出した感じがする」
「……そうですね」

 私もその横に立ち、同じ風景を見つめる。
 特別な会話をしなくても不自然がない。この感覚も初めてのもので、どうして佐伯さんはこんなにも居心地がいいんだろうと思う。

「どこが……」
「ん?」
「私のどこが……いいんですか? なんかまだ信じられなくて」

 しつこいかなと思ったけれどまだ戸惑っていた気持ちを私はつい口にしていた。
 それくらい、私も佐伯さんといることに素直に心地よさを感じ始めていて。
 本気にしたらもう戻れない予感がしていたからだ。

(しょうもない理由だったら、もう少し心の距離はとっていた方がいいだろうしね)

 すると佐伯さんは少し沈黙してから、私を見る。

「強いて言うなら……槙野の『笑顔』かな」
「笑顔?」
「まあ、槙野には自覚ないんだろうけど。君が笑っててくれると、なんかどんな大変な時も”大丈夫だ”って思えるんだよ」
「えー…そんなの初めて言われました」

 困惑する私の頬をそっと撫で、佐伯さんはそのアンニュイな目を眩しげに細める。

「あとはその危なっかしい感じ」
「あ、危なっかしい……ですか?」
「うん。放っておけないんだ。槙野が悲しむ顔は見ていたくないって思う」

 真剣な顔でそう言われてしまい、どんな顔をしていいかわからなくて視線を泳がせてしまう。
 でも、嫌な感じじゃない。むしろ嬉しくて、自然に頬が緩んでしまう。
 すると彼は触れたいた指を離して、今度は両手で私の頬を挟んだ。

「んむっ?」
「はは、面白い顔」
「な、何するんですか!」
「怒った顔もいいな」
「もう!」

 離れようと手で胸を押すと、そのまま彼の腕の中に抱きすくめられてしまう。

(え……)

 柔らかな温もりが全身を包み、鼻腔をくすぐる淡いコロンの香りに鼓動が跳ねた。

「さ、佐伯……さん。通る人が見てます」

 身じろぎするけれど彼の腕は強くて、逃れられない。

「恋人なんだから、これくらい普通でしょ」
「そ、うかもしれないですけど……」

(恥ずかしいし、顔が熱くて火が出そうだよ)

「本当、君はあったかくて……心地いい。こんな温もり知ったら……もう手放せないよ」
「…………っ」
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