あなたの隣を独り占めしたい(続編まで完結)
「一つ突っ込んで聞きたいんだけど、いい?」
「はい」
「あの男と一緒にいて、安らぎはあった?」
「安らぎ……」
(あったと思っていたけど、佐伯さんと一緒の安心感に比べたら不安ばかりだった)

 それでも圭吾だけが悪かったわけではないと思う。
 交際っていうのは双方に何かしら原因があるのが普通だから。

「安らいだかどうかは微妙ですけど、優しかったとは思います」
「誰にでもいい顔をするって意味で?」
「……ん、そうですね」

 私との約束より友人との約束を優先することはしょっちゅうだった。
 同僚と飲みに行くと行って夕飯を食べに来てもらえなかったこともある。
 全部彼が優しい(付き合いがいい)からなんだと思っていた。

 本当は心のどこかで寂しくて不安だと思っていたのに、その思いには蓋をした。

「私は……自分の本当の気持ちを、騙していたのかもしれません」

(圭吾を愛してるって。あの人以外、私を愛してくれる人なんかいないって思い込んでた)

 私の言葉を聞き、佐伯さんはうんと深く頷いた。
 この言葉を私の口から引き出したかったみたいだ。

「その気持ち忘れないで。槙野はもっと丁寧に扱われるべきだよ」
「丁寧に……」
「そう。不安になんかならないで、一緒にいると安心で満たされて……つい笑顔になってしまうような。そういう人と付き合わないと」
「……」
(それ、多分佐伯さんなんです)

 そう思ったけれど、どう口にしたらいいかわからない。
 恋人の実感がないと思っていたけれど、それは単に私が劣等感の塊だからで。心の中では、もう失いたくない人になりつつあるのはわかってる。

(でもこの気持ち、口にしちゃっていいのかな)
 
 自分から男性を求めるのは経験がない。
 手の届かない素敵な人だと認識していた人なら、なおさらだ。
 私は今、この先を誘っていいものかと葛藤している。

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