極上御曹司は懐妊秘書を娶りたい
「君は相変わらず嘘がつけないな」
 五臓六腑を焼き尽くされるほどの痛みと、焦燥。胸を掻きむしりたくなるような激しい嫉妬が、俺の内側をぐしゃぐしゃに破壊していく。彼女のお腹に、子どもがいる。それが何を意味するのかなんて、分かりたくなかった。
 俺に相談、もしくは慰謝料を取るという手段を取らずに会社を辞めるということは、恐らく相手は俺ではない。あの夢のごとき一夜がたとえ現実だったとしても、最後まできっちりと避妊はしていたはずだ。
 腹の底で暴れ出しそうになる感情を寸でのところで抑え込みながら、眼前に立ち尽くす麻田を見つめる。このまま黙って彼女を攫われるなんて、到底耐えられない。本当に欲しいものは手に入らない、――――その呪いに膝を折るのは、足掻いてからでも遅くないだろう。
「相手は……恋人、だよな。……君にそういう相手がいるとは知らなかった」
「……そう、ですね。言ってなかったので……」
「ッ、……」
 唇を噛みしめながら頷く麻田に、再び心の中で嵐が吹き荒れる。今すぐ彼女を押し倒して相手の名を問いただしそうになる衝動を堪え、奥歯を噛みしめて、次の質問を投げかけた。
「その男と、結婚するのか」
「私、あの……一人で、産もうかと」
「そうか……不躾だったな。すまない」
 嫉妬に耐えながら質問をした甲斐があって、大方見えてきた。
 恋人がいるのに一人で産むということは、相手が頼れない状況か、もしくは今回のことで恋人ではなくなってしまったのだろう。
 それなら、まだ俺にも戦いようがある。
 頼れない相手なら、その相手から奪ってしまえばいい。独りで子どもを産み、育てるということに対するプレッシャーや不安を和らげるように囲い込んで、――――俺なしでは立っていられなくさせてしまえばいい。
 どこかの甲斐性なしの男の代わりに、俺が、彼女を幸せにしてしまえばいい。
「……納得はしていないが、君の考えは理解した」
「じゃあ……」
「だが、もし一人で育てるのなら金も入り用になるだろう。……どうしても秘書を辞めたいというのなら、別の仕事はどうだ」
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