若き社長は婚約者の姉を溺愛する
救出
 掃除スタッフがうまく手渡してくれたかどうかまでは、確認できず、仕事を終えて帰宅した。
 仕事環境のおかげで、食べ物に困ることがなく、少なくとも餓死せずに済みそうだった。

「我ながら、たくましい……」

 これで、ひと安心と言いたいところだけど、瑞生(たまき)さんはご飯食べ、眠れているのだろうか。
 
「私に人のことを心配する余裕なんてないけど……」

 以前の私なら、他人と関わらないようにして、『迷惑だから、これでよかった』と思っていたはずだ。
 でも――

「これでいいなんて思えない」

 少しずつ冷静になってきた頭の中を整理し、瑞生さんに会うチャンスがないか、考えるようになっていた。 
 まずは、部屋を掃除して、古いとはいえ、暮らせる程度にまでにした。
 精神的にたくましいのか、もう電車の音も気にならないし、今まで家事をしながら働いていたから、時間が余っていた。
 大変なのは、むしろ私じゃない。
 
「私がいなくなって、沖重の家の中は大丈夫なのかしら?」

 継母や梨沙が家事をしたところを見たことがない。
 お茶のお湯さえ、沸かせないはず……
 家事代行サービスを頼んでも、どこまでやってもらえるか。
 そんなことを思いながら、もらったペットボトルのお茶を飲む。
 ぼうっとしながら、通りすぎていく電車を眺めていると、部屋の玄関ドアが、ガチャガチャいう音が聞こえてきた。

 ――ど、泥棒!?

 ホウキを手にして、ドアのそばまで行く。
 玄関横の磨りガラスに、スーツらしき服装がちらりと見えた。
< 139 / 205 >

この作品をシェア

pagetop