若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「もしかして、瑞生さん?」

 手渡されたメモを見て、駆けつけてくれたのだと思った。
 慌てて鍵を外し、ドアを開ける。
 でも、そこにいたのは、瑞生さんではなかった――

一臣(かずおみ)さん……!」
「やあ、美桜(みお)ちゃん。元気にしていた?」

 仕事帰りなのか、スーツ姿の一臣さんがそこにいた。

「なにかご用ですか?」
「もちろん用があったから来たんだよ」

 嫌な予感がして、逃げようと素早く外に出ようとすると、一臣さんは私の腕を掴んだ。
 痛いほどに握られ、部屋へ戻される。

「まだ話もしていないのに、そんな態度はよくないな」
「話すことはありません」

 今まで一臣さんは、周囲が私を傷つけるのを止めているふりをして、私を傷つけてきた。
 それはすべて――
 
「沖重の家から、君を買った。君から俺を必要としてほしかったけどね。美桜ちゃんは勘がよくて困る」

 私を手に入れるためだったのだ。
 ゾッとして、腕を振りほどこうと抵抗した。

「買ったなんて、よく言えますね……!」
「沖重が君をやる代わりに、助けてくれと言ってきたんだ。これは取引なんだよ。そもそも、君が俺を好きになれば、もっと早くに、あの家から助けてやったのに」
「私はあなたに一度も助けてもらおうなんて、思ったことはありません」
 
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