若き社長は婚約者の姉を溺愛する
　一臣さんは私の腕を捻り、ドンッと畳の上に突き飛ばした。
　転倒する私を冷たい目で見下ろす。

「それで、宮ノ入で働いているのをいいことに、あの社長に色目を使ったってわけか」
「違います！　私はそんなことしてなっ……」

　土足の足が、私のすぐ目の前に振り下ろされる。
　そして、一臣さんがしゃがみ、私に向かって微笑んだ。
　その微笑みが怖かった。

「宮ノ入社長はとんでもないよ。沖重(おきしげ)グループを買収し、臨時株主総会を開き、美桜ちゃんの父親を社長から解任した」
「買収……」

　この短期間で、全部やったのだろうか。

　――違う。

　そういえば、誕生日の時、土曜日なのに仕事かと聞いたら、言葉を濁していたような気がする。

「秘書の八木沢(やぎさわ)を社長にするつもりだ。あいつはやり手だからな。誰も反対できなかった」

　反対しなかったではなく、できなかった。
　それだけ、八木沢さんの能力が高く、瑞生さんと同じく名前を知られているということ。
　父が沖重の社長をしているより、社員にとっては、いいような気がした。
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