若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 私が瑞生さんをうまく丸め込んだのが面白くないのか、八木沢さんは少し不満そうな顔をしていた。

「瑞生様がよろしいなら、自分は構いませんが。危険なので、外出はしないでくださいね」
「はい」
「退屈でしょうが、しばらくお待ちください」
「なにをしているんですか?」

 二人の顔を見たけど、口元に笑みの形を無理やり作っていて、目は笑っていない。

「仕事だな」 
「そうですね。ちょっと大きな仕事ですから、美桜さんは瑞生様のために、部屋で大人しくしていてください。ここに書いてあるものは揃えます」
「はあ……」

 なにしているのか教えて欲しいのに――なんとなく、疎外感がある。

「ここに書いていない物で必要な物がある場合は、電話でエントランスにいるコンシェルジュに連絡してください。用意してくれますから」
「はい」 
「それじゃあ、瑞生様、会社に行きましょう」
「そうだな。いってくる」

 八木沢さんは早口で、私に言うと、 二人は逃げるようにしてマンションの部屋から出ていった。
 頼んだものは全て午前中にはきたけれど、あの二人の態度は絶対おかしい。
 なにかしているとしか思えない。
 それがなんなのか、思いを巡らせていたのに、炊飯器が届いて、考えていたことが頭の中から吹き飛んでしまった。

「炊飯器! 白いお米! 味噌!」

 とりあえず、ご飯を炊こうと心に決めた。
 炊飯器とお米が、こんなに嬉しく感じたのは生まれて初めてだった。
< 168 / 205 >

この作品をシェア

pagetop