若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 熱いほうじ茶が入ったコップを両手で包み、息を吸い込んだ。

「社長はどうして私と付き合いたいと思ったんですか? 正直、わけありな女とか面倒なだけじゃないですか……。宮ノ入グループの社長なら、女の人がたくさん寄ってきますよね?」
「そうだな」

 否定しないところが正直でいいけど、やっぱりモテるらしい。
 社内だけでも、そうなのだから、外ではなおさらだろう。

「俺は騒がしいのが苦手だ。人の声が聞こえると眠れなくなる」
「え?」

 社長の意外な弱みに驚いた。
 そういえば、出会った時から、眠そうにしていたし、社長室があるフロアは静かだった。
 最近はここで少し眠っていくからか、顔色も悪くない。

「美桜は違う。そばにいると眠れて、声も落ち着く」
「睡眠剤みたいなものですか」

 私がくすりと笑うと、社長も笑う。

「生きるために睡眠は必要だ」
「……そうですね」

 自分が生きるために、私が必要だと言われたような気がした。
 それは重いはずの言葉だったのに、私にはなによりも嬉しく感じた。

「俺も聞いていいか?」
「はい」
「眼鏡がなぜ必要なんだ?」

 朝の拒絶を気にしていたのだろう。
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