怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「それなら決まりだ。今夜は寿司を食べに行こう。美味しいところを知っているから」
「はい」
「そのあとでちょっと寄りたいところがあるから付き合って」
「寄りたいところですか?」
どこだろうと首をかしげる私に悠正さんはただ微笑むだけで行き先は教えてくれなかった。
*
その日、定時で仕事を終えた私は事務所の外で悠正さんが出てくるのを待っていた。
彼ももう帰り支度を終えたはずだけれど、他の弁護士さんに声を掛けられて少しだけ仕事の話をしてから来るそうだ。
悠正さんが出てくるのをしばらく待っていると、見覚えのあるスーツ姿の男性がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
印象の強い人だったからよく覚えている。鏑木さんだ。向こうも私に気が付いたらしく、小走りで駆けよってくる。
「タイミングよく小野坂さん発見。久しぶり」
「お久しぶりです」
前回会ったのは二週間ほど前だろうか。
鏑木さんは手に持っているカバンから折り畳み傘を取り出すとそれを私に手渡した。
「返すのが遅くなったけど、傘ありがとう。おかげで助かった」
「いえ。わざわざありがとうございます」
どうやら折り畳み傘を返しにここまで来てくれたらしい。隠岐総合法律事務所の事務員だと名乗ったのでここがわかったのだろう。