怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
受け取った折り畳み傘はしっかりと乾かされているようで、丁寧に畳まれて袋におさまっている。それをバッグにしまっていると、鏑木さんが「あのさ」と私に向かって口を開いた。
「その傘のお礼がしたいんだけど、これから食事でもどう?」
「えっ」
突然の誘いに驚いてしまった。けれど、このあとは悠正さんと食事に出掛けるので断らないと。
「もしかしてなにか予定ある?」
すぐに答えない私を見て、どうやら鏑木さんが察してくれたようだ。
「それなら今日じゃなくてもいいから、また別の日にでも。あっ、連絡先交換しようよ。食事できそうな日があったら教えて」
「えっ、いえ、あの……」
お礼をしてもらうために傘を貸したわけではないし、連絡先も交換できないので丁重にお断りしようとしていると、突然背後からグイッと腕を引かれた。
とっさのことにバランスを崩してしまうと、そんな私を受け止めるように後ろからお腹に手を回され引き寄せられる。
すると、目の前の鏑木さんがわかりやすく表情を歪め、低い声でぼそっと呟いた。
「……出たよ、隠岐」
「久しぶりだな、鏑木」