怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
どうやら私の腕を引き、引き寄せたのは悠正さんのようだ。彼は背後から私を片手で抱き込むと、目の前の鏑木さんに向かって声を掛ける。
「俺の奥さんを食事に誘うのはやめてくれないか。彼女はこれから俺とディナーだよ」
「奥さん?」
「そう。彼女は俺の奥さん」
そんな悠正さんの言葉を聞いた鏑木さんの目が驚いたように見開かれた。
「隠岐、お前結婚したの? 俺、知らなかったんだけど」
「だろうな。お前には報告してない」
「なんで言わないんだよ」
「知りたかったのか? でもお前、俺のことなんて興味ないだろ」
「……っ」
悠正さんが冷たく言い放つと、鏑木さんがぐっと押し黙った。
なんだかピリピリとした空気がふたりの間に流れ始めて、居心地の悪さを感じてまう。
すると、鏑木さんがなにかに気が付いたようにハッとなり、その視線が不思議そうに私に向けられる。
「でも、おかしいだろ。彼女の名前は小野坂だよな。この前、俺はそう自己紹介されたけど、結婚してるのに名字が違うのか」
「は?」
鏑木さんの言葉のあと、頭上から悠正さんの低い声が落ちてきた。
後ろからお腹のあたりに腕を回され抱き寄せられているので実際に悠正さんの表情は見えないものの、なんとなく彼からはイラっとしたような雰囲気が伝わってくる。